猫は気まぐれだ。飼い猫ならばまさにそうだ。猫なで声で近づいてきて、懐に入ったとたんに、
喉笛を食いちぎるのだ。


不機嫌な表情をするのが常であるダンは、今も類に漏れず不機嫌な顔をしている。
それが気持ちのいい青空であっても美しい星空であっても変わらずに、不機嫌な顔だ。
ワインレッドのソファに脱力して寝そべる姿は猫科の生物のようだった。しなやかであり、どこか神秘的だ。
野良猫のように気まぐれに出入りするダンを、この家の主であり彼の師匠であるカーティス・ブラックバーンは特に何の感慨も持たずに見つめている。
天使のような処女を愛するカーティスが悪魔のような男を手元に置くのは異例のことだった。
しかし彼もまた、気まぐれな猫のような気質の持ち主である。
ダンのことは黒猫を一匹放し飼いにしているのと同じようにしか考えていないのかもしれない。
その証拠に気まぐれにダンに構い、気まぐれにダンを放っておく。
ワインレッドのソファに近づいたカーティスを、ダンの黒い瞳が捕らえた。
白い肌に黒い瞳、黒いスーツのダンはまるでそこだけモノクロームの映画のような錯覚を起こさせる。
対するカーティスも白い肌に白い髪、灰色の瞳でモノクロームの映画の登場人物に相違ない容姿をしていた。
二人が挟んだワインレッドのソファだけが、ただ一つの色だ。
「勘違いするなよ」
ダンが呟いた。その口の端を不敵に歪め、カーティスを挑発する。猫の戯れだ。カーティスは思う。
「勘違いするなよ、クソジジイ。テメエがオレを飼ってるんじゃねえ」
「違うのか」
カーティスが余裕の表情でそう返すのでダンはまた、不機嫌そうに眉をつりあげる。
「オレが、テメエに飼われてやってるんだ。解ったか、あ?」
モノクロームのダンが吼える。対するカーティスは無声映画の俳優のように無言でふと微笑んだ。
「ならば飼い犬に噛まれることもないだろう。お前のような、悪魔のような男であれば」
無声映画から一転してトーキー映画の俳優となったカーティスがダンに手を伸ばす。
その手をダンが、鷲掴みにした。
「オレは犬や悪魔なんかより上等な生き物だ。いつかその首食いちぎってやる」
カーティスにはその様が、決して懐かない野良猫のように思える。
彼はもう片方の手で、猫にそうしてやるように、ダンの喉を撫で上げた。









初心に返って師匠と弟子です。ダンを猫科にしてみました。
そういえばこの二人、見た目が白と黒で構成されてるなあと思って…


戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送